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家族4代が見つめてきた、リンゴの木
日本最古のリンゴの木があると聞いて、そのオーナーであり柏地区でリンゴ農家を営む古坂徳夫さん(59歳)を訪ねた。「ニャ~オ、ニャ~オ」まず、出迎えてくれたのは30匹は下らぬ猫たち。ある日一匹が迷い込んできたと思ったら、いつの間にかこんなに増えていたという。「野ネズミを捕ってくれるので助かっているけどね」と笑う古坂さん。
広大なリンゴ畑の入口近くに、そのリンゴの木はあった。しかも、3本!
幹の周囲は3メートル超、太い枝が横へ横へと四方に張り出し、想像をはるかに超える偉容だ。
「紅絞」という品種が2本。小玉で真紅に実るさまが玉かんざしを思わせ、通称タマカンと呼ばれている。もう1本が「祝」という品種。
もちろん毎年数千個の実がなる現役バリバリだが、「子供たちにもぎ取り体験させたり、『祝』は縁起のいい名前だから、収穫したら長寿のリンゴとして近くの老人ホームに贈って喜ばれています。この木で商売する気にはなれないからね(笑)」
樹齢は?「今年で131歳(!)明治11年に、ひいじいさんの古坂乙吉がここに植えたことが分かっています。当時の政府は全国に苗木を配布したが、結局今も残っているのはここ津軽だけです」
ちなみに、リンゴの木の平均寿命は5~60年とか。こうなったら、めざせ200歳!
「そう、200歳、300歳とね。私は生きていないがね(笑)」 荷台・倉庫の周り、果ては軽トラの運転席まで占領中。 荷台・倉庫の周り、果ては軽トラの運転席まで占領中。
“リンゴの津軽”は、これからも譲れない。 と、そこへ「リンゴの会」代表の荒谷隆志さん(65歳)が加わってくれた。リンゴ一筋に45年。「リンゴの木は育つのに時間かかるし、苦労もしたけど簡単に仕事は変えられね、いつの間にかここまで来たな」と荒谷さんは言う。
今は“リンゴの津軽”を守る立場から、継ぎ手のいない農家の土地を仲間うちで肩代わりしたり、と幅広く活動している。そして、「長野などは大消費地に近い地の利がある。こっちも消費者の視点で多品種少量生産するとか、農協も販売チャンネルを持つとか、もっと売る努力をせねばまいね(ダメだ)」と語る。
古坂さんも「フジのようないい品種が出ると、フジ一辺倒になる。それがいけない。国内では競争が厳しくなっているが、最近は台湾への輸出が増えているなど、新しい芽もある。必要なのは、自分で守る、地域で守るという自立心。それと、若い人の参入だね」と語る。長年のキャリアと自負を顔に刻んだお二人に、最後に“農の喜び”を語ってもらおう。 古坂さんは「自分が収穫したものを喜んで食べてもらうことが、何より喜びだね」
荒谷さんは「育てる喜びだな。一年通して喜びがある。だから続けてこられた」 リンゴの会代表・荒谷さん 酸味があり懐かしい味